昨日のpostingで どこで寝るのがいいかについて コメントいただいたので 思い出しました。
心臓外科医をやっていると 家で寝るのは 週に2-3回くらいなもので
あとは 病院のなかのどこかに 寝床を確保することになります。
目を離せないくらいの重症患者がいれば 一晩中 ベットサイドに座り続けることになるし
それが数日続く時は ベットサイドに ストレッチャー(移動用の簡易ベット)を並べて そこで仮眠を取ったりします。
こうやって改めて書くと 大変そうに見えるけど 実際は 夜が明けるのなんてあっという間だし
心電図の音が聞こえる範囲で 患者の足を触りながら(これは末梢循環を確認するためです)寝たほうが ずっと 安眠できるというもの。
悲惨なのは 重症患者がいないのに 泊まらなくてはいけない時です。
当直室に 泊まればいいのだけど
当直室は大抵 男臭くて タバコ臭くて 汚くて 眠る気になんかなれやしない。
結局 自前の寝袋を抱え
図書室の床 医局長室の机の上 教授室の椅子の下 今は使われていない古い病室
寝床を探して うろつくことになるのです。
(この古い病室は最悪。 いつも何かに 首を絞められる夢をみて 目が覚めるのです。
まあ おかげで寝坊しなくて いいけど。)
安眠という点で言えば そこそこの重症者がいる時が 一番安眠できます。
患者がいるから って言うんで 大きな顔をして 集中治療室の休憩室に寝ることができるからです。
集中治療室の休憩室には 大きな皮のソファが あって
今日は このソファの話。
病院の備品だから たいして高価なものでは ないのだろうけど
適度に硬い 弾力のある座り心地 さらさらひんやりとした手触り 足を絡めたくなるような肘掛
まるで 風呂上りの男の体のよう。
一度座ったら 根が生えてしまいそうな 気持ちのよさ。
男の胸板を競い合う女のように
このソファをめぐって 毎晩熱い戦いが 繰り広げられています。
実は このソファ 一歩間違えば 永久に私たちの手から 奪われてしまったかもしれないのです。
集中治療部と救急部が 同じ休憩室に同居していた頃のことです。
いつものように彼とのクールな夜を過ごした私に
朝飯代わりの 牛乳を飲みながら 集中治療部の教官が 話しかけてきました。
「先生の そのソファですけどね (この頃 彼を射止めるのは いつだって私 と相場が決まっていました) 実は 救急部の備品だったんですよ。
だから 今度の引越しの際には 救急部のほうへ行くことになるんです。
ええ 残念ですけど。 確からしいですよ」
確認してみると確かに 備品ラベルには 「救急部」と 書かれている。
この朝のショックと言ったら!! 救急部に所属変えてもらおうかと 血迷いました。
彼のこのすべすべした皮膚に あの救急部の毛むくじゃらの男たちが 顔を埋めるかと思うと
嫌悪で 身の毛もよだつようでした。
で どうしたかって? 簡単です。
引越しの朝早く ひとつひとつの備品につけられた 行き先ラベル を こっそり張り替えといたんです。
新集中治療部へ ってね。
あら なんかの手違いですかねえ かなりどたばたしてましたからねえ
ご入用であれば もって行っていただいてかまいませんけど。 あ 重いですか ね。
そんなわけで 彼はいまも 私たちの 元にいます。