スーパーから帰った私の買い物袋を覗いて、お義母さんが息を呑んだ。
「なんてきれいな茄子でしょう。こんなおいしそうな茄子を見たことはないわ。」
「お義母さん、茄子お好きなんです?」
「ええ、ええ!好きなんてもんじゃないわ。愛しているのよ!」
「じゃあ今晩はこれにしましょうか」
「いいえ、今晩はもう用意してあるでしょう。明日でいいわ。この茄子明日の夜二人でこっそり食べましょう。あの子は茄子が苦手なのよ。」
茄子を抱きしめたまま、声を潜めて私にささやいた、いたずらっぽいお義母さんの表情が忘れられない。約束どおりその次の夜、私たちはその茄子を丸ごとフライにしてかぶりついた。
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「あぶ、疲れているんだろう?夕飯は僕が作るから、ソファーで寝てなよ。ほらまずビール。」
軽い乾杯だけ済ませ、早速台所にもどった彼は冷蔵庫を開けるなり、小さな悲鳴をあげた。
「えらく買い込んだもんだなあ。どうやってこんなに食べるつもりだったの?」
「ほら今週は予定手術が案外簡単なものばかりだったし、ちゃんと料理ができるつもりだったのよ。それが蓋を開けてみたらこれ。緊急手術がこんなにあるとは予想外だったのよ。」
「予定通りいかないのはいつものこと、いい加減学んだらどう?待っている僕のほうがよっぽどあきらめも学習も早いじゃないか。」
そりゃあそうよ。待たされているほうより待たしているほうが罪悪感は強いのだし、強い分だけ験かつぎのように祈りを込めて帰れるつもりの支度を欠かしたくはないのだもの。
そんな私の気持ちを知ってか知らでか、文句とは裏腹に鼻歌まじりの軽やかな手つきで、冷蔵庫から食材を取り出してカウンターに並べる。
「まあいい。ここは僕に任せて、君はシャワーでも浴びておいで。次のビールを開ける前にね。リラックスするのはその顔についた血を洗い流してからだ。」
熱いシャワー。止まっていた血液が流れ始める。顔についた血というのがどこをさしているのか、そんなことはどうでもいい。頭から足先まですっぽりつるつるに泡に包んで洗い流す。
脱衣所でがたがたと音がするのは、新しいタオルを私のために出しているのだろう。
漂ってくるのはにんにくの焦げる匂い。ああビールだ。今日はビールだ。

【茄子とトマトのパルメザンチーズ焼き にんにくとイタリアンハーブ風味 byあばら】
「あら、まあ、茄子!あなた嫌いじゃなかったの?」
「嫌いじゃない。知らなかっただけだ。その味も扱いも。茄子はこれまでの僕の人生にとって身近ではなかったんだよ。今ではもう、僕は茄子を知っている。君が、僕に、茄子を教えたんだ。」
「お義母さんも茄子が大好きなのよ。知っていた?」
「うん。今ではその気持ちがよく分かる。今や僕の人生に茄子が含まれているのを感じるよ。」
その晩私たちは、彼の人生に新しく加わった茄子について、心ゆくまで語り合った。幼いころ私が、あるいは彼の母がどんな風にして茄子を食べたかについて。丸茄子と長茄子の違いについて。茄子の花の美しさ、つつましさについて。あく抜きついて。茄子と油の相性、一見ふかふかした果実のどこにあれだけの水気を蓄えているのか。蒸した茄子をきりりと冷やして芥子を添えて、これには素麺が欠かせない。焼き茄子は手がかかるけれど、あなたの皮のあつい指先なら簡単よ。素揚げに生姜醤油もいいけれど、揚げ浸しも捨てがたい。味噌炒めなら少々辛めに、ああ、茗荷とともに味噌汁に入れるのは絶対忘れちゃだめ。今度はおいしいトマトソースを煮ておきましょう。あなたの料理がもっと洗練されるはず。
ああ、茄子。彼の中も私の中も、今や新しく発見された茄子で満たされている。茄子の美しさ、茄子の未知、茄子の可能性を自分たちの未来に重ね合わせ、私たちはわくわくしているのだ。
さあ、夏。