【持ち回りテーマ∞第19回テーマ:花火】
その小さな田舎町に住んだのは 10年ほど前のこと。
仕事の都合で たった1年だけ 病院の隣の独身寮に 住んだ。
町の真ん中を 川が流れていて
その川を下ると 海に出れるんだと 地図の上では知っていたが
川を下るにしろ 列車に乗るにしろ あるいは 車を走らせるにしろ
その町をでるには 気の遠くなるような 回り道をするか
いくつもの高い峠と いくつもの長いトンネルを 抜けねばならず
南北に長いその県の 南の端でありながら 南に接する次の県に道は繋がっていなかったから
人も 物も 流れ流れた ドン詰まりの 吹き溜まりに
いきなり開けた 小さな公園のような 町だった。
その町は 古い花火職人の 町だった。
小さなその町に 数え切れないほどの 工場が軒を連ねていた。
夏になると あちこちの神社で 花火があがった。
7月のはじめから 9月の終わりまで
この小さな町に そんなにたくさんの神社があるのかと
にわか神社の出現を疑いたくなるほど
毎日 毎日
花火が あがった。
今日はこの部落 明日は隣の部落
毎日 どこかであがっている花火の 根っこ を探して 仕事が終わると 自転車を飛ばした。
その町では 花火は根っこから 見上げるものだった。
「次は ○○地区 ××組 4丁目の皆様による スターマイン です」
(その町のすごいところは 隣組レベルで 花火のスポンサーになることだった)
人ごみにもまれて 首を90度に曲げて 立ち尽くし
いったい いくつの 花火を 見上げたことか。
夜な夜な 自転車をこぐのは なにも 祭り好きのため だけではなかった。
「今日は おらほの 神社の 花火だあ」
病院に居たままで 花火の音にじっと聞き耳をたてる 老人たちに代わって
花火を 見届けに 行くのだ。
「○○さん 花火みてきたよ 大きかったあ。 降ってくるみたいだった。」
翌朝の回診で お土産のぼんぼんを渡して 報告する。
「そうだろう。 おらほの花火が 一番だに。」
夏になると 思い出す。
毎日どこかで 遠雷のように響く 花火の音。
汗まみれになって こいだ自転車
川原に向かう土手を さあっと 風を切って下り
見上げた空には 降るような光の雨。
来年は あなたが 自分で見れるといい
無理と知りつつ 祈らずにはいられぬ 夏の風。
今も あの吹き溜まりの町で 若い医師が 花火を見届けに 夜な夜な自転車を走らせているのだろうか。