大学に入ったばかりの頃か。
鏡の前に裸で立った。
それは 突然に訪れた 十戒のように 割れる海のように 雲を割る声のように。
これは 私の体であり
この乳房も この尻も この太腿も
誰のためでもなく
性的役割を 超越し
ただただ
全くもって
この私に 所属 するのだ。
ああ この全てが わたしの ものなのだ
と
大声で 叫びだしたいような 衝動に 襲われた。
女であるとは どういうことなのか。
それまで 私には 受け入れられなかったのだ。
女であることの おぞましさ。
約束したように 回り来る 月のものも
いずれ 悪魔を 孕むであろう この胎も
私には 許せなかった。
消費される 性を生き
大地の意志以外になら 何にでも この身を捧げようと 思っていた。
あるいは
いったい この体のどこが
異物を 欲し
破壊を 望むのであろうと
悲しみも 喜びも
サブミナルな支配に 犯されているのでは なかろうかと
体中の 穴という 穴を
白日の下に さらし
意識の 統制下に 治めんと
望んだ。
あの 母の
全てを超越し 予見し 私を胞む 母たるものの
父の娘(こ)であれと 脅迫する 母たるものの
子を産めと命じ 私を 再生産の 網目に掬い取ろうとする 母たるものの
支配を離れ
いや その 支配をも 笑って受け入れる 覚悟が できたと いうことか。
大地と 向き合うまでに
大きな 回り道をした
ああ 大地の 母よ
あなたの支配から 脱出し
やっと私は
貧弱なこの生を
吹けば飛ぶような はかない この生を
何処にも続かない この生を
だからこそ いとおしいのだと
手のひらに そっとのせて
息すら吹きかからないように
大事に 大事に
この 地上に
ごみ捨てのような この地上に
置いたのだ。
「女は 女に生まれるのではない 女に なるのだ」
そう
あのとき 私は
女であることを
選び取った のだ。
私は 今
十全たる 意志をもって
わが身を いとおしいと 思う。
私が 死ぬときは お前を 道連れに 逝こう。