「先生がさ、手術をすればまた山に行けるよって、なぁ。
ほんとに行けるようになるとはおもわなんだ。ほれ。」
外来の患者さんが背負ったリックからごそごそと取り出して下さったのは
なんて立派なうど、ミョウガの芽、イヌドウマ。
「今日外来だからと思って、朝から裏山に行ってきただよ。」
退院したら先生においしいうどを食べさせてやるで、という、患者にしてみれば夢のような、医師にしてみれば勇気を持たせるための方便のような約束は、確かに果たされたのだった。
2時間待ちが当たり前の大学病院の外来。
10時に診察を受けるには8時に受付を通らなくっちゃならない。
町へ下るバス停に並んだのはきっとそれより1時間も前。
朝露を踏み分け、寝ぼけ眼の山の獣を驚かし、山の恵みを摘んで回る一歩一歩。
昇ったばかりの太陽は、まだ冷たい山の気にかじかむ曲がった指をほんのりと温めたろうか。
入院中枕元に飾っていた写真のポチは、嬉しそうにしっぽを振ってお供したのだろうか。
「この歳でなぁ、おっかないで」と尻込みする彼女を説き伏せ手術に向わせた、孫娘ほどの医師に、うどを食べさせようと張り切る彼女を、いえの若い人は困ったもんだと笑ったろうか。
日に数本しかないバスの時間を気にして、「まったくばあちゃんは支度が遅いで」と苛苛したのではないだろうか。
新聞で丁寧に包んだどっしりと重いそれを背負って朝靄の中、しゃんとバスを待つ彼女に、村の人はなんと声をかけたろうか。
5月も終わり。
夏が、くる。
喉ごしのよい純米酒を ガラスのお猪口でいただく。
鯛の干物
素麺
うどとイヌドウマの天婦羅
冷奴