近頃あたしはめっきり不眠だ。
続く寝不足のためか砂を噛んだような灰色の頭痛が右目の奥に巣食い、首を振るたびに軽いめまいが襲う。
からだもあたまもぐったりくたびれきって、細胞という細胞が眠りを欲しているというのに、覚醒の光に照らし続けられて私の存在はもう限界だというのに、辺りを満たす闇が深ければ深いほど瞳は煌々と冴え、からだの奥底で何かが沸騰しているような興奮が眠りの到来を妨げている。
眠りを妨げているのは闇だ。昨日もおとついもその前もその前もその前も、いつからなのかもはや分からぬほど連綿と続いている覚醒の日々に、疲れ果てぐったりと床に横たえたあたしのからだに、今日もまた闇が進入する。
あたしは闇にからだを明け渡し、吐き気を催すほどに重いからだの内的実感も甘美な眠りへの欲望も、もはや感じることはできない。
あたしは闇になる。闇に同化し闇という強度になり、もはやあたしはどこにもいない。
闇にからだを明け渡したあたしは、覚醒というまなざしとなる。あたしのからだは隅々までまなざしに煌々と照らされ、そこには空虚な言葉が大声で飛び交っている。
「あたしは」とまなざしは思う。
思いは声となり存在の中で反響し「あたしは」「あたしは」「あたしは」「あたしは」無限の壁にこだまする。
「あたしは」・・・・「あたしは」「あたしは」「あたしは」「あたしは」「あたしは」空間が一斉に揺れ「あたしは」のこだま。シャンデリアのように下がった無数の鈴が一斉に繰り返す。「あたしは」「あたしは」「あたしは」「あたしは」「あたしは」。もうあたしは、一番初めの「あたしは」を探すことはできない。
頭を振る。苛苛するほどにゆっくりと沈殿し始めた「あたしは」が澱のように舞い上がり、再び「あたしは」のざわめきが繰り返される。
「あたしは」のエコーが鳴り止むのを待って、「あたしは」の鈴を蹴飛ばさぬように息を止めて「んんん・・は」。「・・は」・・は」・・は」・・は」。エコーの効いた声が澱のように舞い上がり砂嵐となる。「・・は」・・は」・・は」。が鼻といわず喉といわず吸い込まれ窒息の恐怖が襲う。
邪悪なのは「は」なのか。「は」の特権、主語を、主体を定める「は」の特権的力が眠りを妨げているのか。
では行為は?行為は己の特権を言い立てる邪悪な精神から逃れているのか。行為は無垢であるのか、と思う」と思う」と思う」と思う」と思う」と思う」と思う」と思う。
何番目の「思う」があたしの本当の思うなのかしら、と思う。」と思う。」と思う。」と思う。」と思う。
無数のあたしが、「と思う」、を思い、と思い、と思い、どの思うがあたしを逆指名する「思う」なのか、あたしにはもう、ワカラナイ、ということもワカラナイ、ということもワカラナイ、ということもワカラナイ。」
言表の主体と行為の主体とそんな区別がなんの意味があるものか、あたしはもう、どこにもいない。あたしは闇に犯され、闇は言葉に犯され、言葉は声に犯されている。
声よ声よ声よ。あたしの中を大声で飛び交う主体なき声よ。黙れ。」黙れ。」黙れ。」黙れ。」
喉から胃の腑を引きずり出し踏みつけにして豚の餌に混ぜたらよいのか。それともあるいは我が喉に爪を立て気管を押しつぶせばよいのか。
あたしに眠りを、束の間の静寂を。
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