
この土鍋は実家から持ってきたものです。
私が幼い頃、父の帰りが遅い日の手抜きご飯の定番はこの土鍋を使った煮込みうどんでした。くったりと煮込まれた白ネギ、汁を吸ってびしょびしょした油揚げ、鍋の表面は決まって固めの溶き卵でとじられていました。
娘達が家を出、すっかり出番を失って天棚に押し込まれていたものを何かの折に見つけ、懐かしさに使う予定もないままに2つだけ持ってきたのが、やっとここに来て出番を得るようになりました。
子供の頃家族5人で囲んだ食卓に並んだ料理がなんであったのか、記憶の底をまさぐってもろくに思い出せもしませんが、使っていた食器だけはなぜか鮮明に覚えています。
その多くは娘達が家を出るとともに使われなくなり、いつしか物置に押し込まれてしまいました。私はそれが残念でならず、たまに帰省する折に触れては、止まった時の向こうから化石を掘り起こすように、物置に積まれたダンボールをこっそりこじ開けて埃を被った食器の中から、使い勝手のよいもの、懐かしいものを1客か2客、一人暮らしにふさわしいだけを、「せっかく片付けたのにお前が来るとまたぐしゃぐしゃになる」と母に嫌な顔をされながらも懲りずに下宿に連れ帰っておりました。
母が死に父だけの実家になり、残された食器たちはどうしているかしら。
もともと実用向きの安手の物。5客そろっているならまだしも、組を崩されて2客3客半端に残されたものなど、物に執着のない父がどうせきっぱり不燃ごみにでも出してしまっているだろうと思うと、思いつきの懐かしさで半端物にしてしまった申し訳なさと、その一方で廃棄を免れて手元に残された1客2客のそれらに言いようのない愛着を覚えます。
【白菜とひき肉のはさみ蒸し煮】
白菜が甘い季節になりました。
ゆっくり蒸すととろとろになります。
鍋ひとつ、半分はお燗で、残りは白ワインで。