このお題だけには当たりたくない!って思っていたのに・・・・。そう思っているものほど当たり易いのは世の常なのでしょう。
というわけで、無趣味です。そう言うと「つまんねー女だな」って目で見られますけど、いいんです。無趣味だって別に人生十分楽しいし。
なんて今だからこそこんなふうに開き直っていられますが、数年前まで「趣味」という言葉を聞くだけで胸がどきどきして痛くなるくらいのトラウマをもっておりました。
私が医師になったばかりの頃は、受験地獄なんて言葉がもてはやされている頃で、医師といえば受験勉強しかしてこなかった偏屈野郎、「頭はどれだけいいか知らねーが人間としちゃあ落第よ。そんな奴に人間の心が分かってたまるか」っていうステレオタイプの批判がマスコミや巷の居酒屋をにぎわしており、先進的な医師諸先輩方は躍起になって「人間味あふれる医師の育成」に力を注いでおられました。
人間味あふれるためにはどうしたらよいか。趣味だ、趣味を持たねばいかん。そんなわけで仕事以外の趣味を持つことが奨励され、採用の面接でも歓迎会でも普段の雑談でも「お前の趣味はなんだ」が最も重要な話題でありました。「私の趣味は○○です」ときっぱりはっきり言えないような奴は、患者の心が分からない受験エリート、仕事馬鹿、「そんな奴はろくな医者にならん」と鼻で笑われ、切り捨てられるの怖さに新人は実際持ってもいない趣味をでっちあげるのに必死でありました。
一年365日休日なしに働いて帰宅は常に午前様、新婚の同僚は新妻を当直室に連れてくる有様で、趣味の時間など持ちようもなく、また持ちようもないことを知りながらの「お前の趣味はなんだ」はほとんどいじめの様相を呈しておりました。
今であれば「職場にいない時間は何をしているか」に読み替えて、読書でもごろ寝でも水槽や鉢植えの手入れでも掃除でも料理でもなんとでも答えようもありましょうが、それは趣味程度の質問で自分を判断されてたまるかという開き直りを得られた今だからできることで、当時はこの質問が出るたびに口ごもり赤面してうつむき、「そんな奴はろくな医者には・・・云々」のお説教を耐え忍ぶ準備をしたものでした。
こういう質問は世間様への申し訳のためにしているだけで、質問している当人が相手に興味があって聞いているわけではないと分かってからは、適当に答えるようになりましたが、適当に答えるにしても正解を得るのはなかなか難しい。
読書やごろ寝では趣味がないと言っているのと同じとしか受け取られなかったし、今でこそアクアリウムやガーデニングといったこじゃれた名称があるものの、当時カメや蛙を飼っていてアパートの中に温室があるなどといえば変態呼ばわりされかねなかったし、掃除や裁縫と答えれば「やっぱり女は世界が狭い」とお決まりの話題に火を点けるだけのことでしたから、きっぱりわりきって受けのよい嘘をつくのが最も簡単であります。
多用したのは「バイクでツーリング」でありました。寝袋とテントを持って北海道から九州まであちこち回ったのは学生の頃。その貧乏ったらしさがよろしいらしい。就職してからはもちろんそんな時間があるはずもなく、昔の相棒は埃を被って放置されたままですがそんなことはかまわない。「近頃は忙しくてなかなか行けていないのですけどね」と付け加えれば、まあ、嘘ではない。
一方同じようなものでも「旅行」はあまりにうそ臭く、さらに若いおねーちゃんが金にものを言わせてヨーロッパやリゾートを回っているように受け取られてよろしくない。実際にはバックパックで東南アジアをふらふらしたり18切符と車中泊を組み合わせての貧乏旅行であっても、そんなことを説明するのも面倒くさい。
私はライセンスを持っていませんが、「ダイビング」という答えもなかなかよろしい。おじさん先生達の想像の範囲をはるかに超えていて突っ込まれようがないし、実際行ったのはライセンスを取ったその回だけであっても、「近頃は忙しくてなかなか行けていないのですけどね」という美しいまとめができる。学生時代にライセンスだけでもとっておけばよかったと何度思ったことか(笑)。
同じように「スキー」「カヤック」「ヨット」「釣り」「山登り」もよくある答えでした。どれだって同じこと、「近頃は忙しくてなかなか行けていないのですけどね」。
不正解の代表は「読書」。そんな金のかからぬいつでもどこでもできるようなのは趣味とは呼ばれないし、「最近は何を読んだ」と問われて家の乱雑な本棚から答えを探すのも極めて困難であります。だいたい「お前の趣味はなんだ」というステレオタイプの質問をする人を相手にしているのだから、答えもまたステレオタイプでなくてはならず、「趣味」の質問の答えを用意するためだけに本屋で平積みになった流行の本を漁るのもばかばかしい。(本気で最近読んだ本を口にしたらかえってくる答えは分かっています。「そうか、お前は右翼(あるいは左翼でも、ネイチャリストでも、反政府主義者でも、リブでも、変態でも、なんでもよろしい)だったのか。」)
近頃は、医師不足と仕事の専門化・細分化によって忙しさにますます拍車がかかり、そうでなくても追い詰められている者に「趣味」を強要するなどといった暴挙は見られなくなり本当にありがたいことです。(この生活のうえ趣味を強要されたら一体どうなることでしょう!)「人間味溢れる」かどうかの踏み絵が、実は目の前の人間の深さ・多様性をひとつの型に押し込む暴力として機能したとは面白い皮肉でありました。(どんな美しい言葉であれマスとして使われ始めた途端、ある種の暴力となりうるのはどんな場合も同じことなのでしょう。)
私は昔も今も時間のほとんどを仕事に捧げていますけど、決してつまらない生活を送っているわけじゃあない。折角の休みだから職場の机に座りきって論文を書こうと思うのは決して恥ずかしいことじゃない。こうして職場の窓から見える秋の空は絵葉書の中のように美しいし、さっき仕事の合間にお昼代わりに齧ったりんごはうっとりするほど甘かった。今頃うちでは発情したベタがメスを追いかけまわしているのだろうし、昨日の夜吊るした塩豚からはぽたぽたと水気が抜け落ちて今晩の私の帰りを待っていることでしょう。
仕事を辞めて子育てをしている友人は言います。「主婦も趣味を持ちましょう、という広告を見ると怖くなるの。私はなんで生きているのだろうって。趣味トラウマの再発よ。」3人の子供と認知症のおじいさんを抱えて働き尽くめている貴女、でも先日一緒に食べたあのお店のくりきんとんはあんなにおいしかったじゃない。膝に抱いた三男坊のほっぺはあんなにつやつやと赤かったじゃない。
あの頃私達をいじめた上司に、マスコミに、広告に今だったらこう言ってやれる。ことさらに趣味などと威張らなくても、おいしいもの美しいものうれしいことは生活のここかしこに散らばっていて、私達は毎日をわくわくしながら夢中で生きていける。そんな私達のことを本当に知りたいのなら、「趣味は?」なんて偉そうに聞くのじゃなしにちょっと腰を屈めて私達の目に映っているこの豊かな世界を一緒に眺めてごらんなさい。誰だって、人生の楽しみを一言で答えられるほど、そんな単純な生き方をしているわけではないのだから。
追記:趣味を持つべきというフレーズが流行り一種の脅迫として働いていた一昔前を思い出したためにこういう書き方になりましたけど、趣味を持つこと、あるいは自分の趣味について語れることを批判しているわけではありません。別の場面で私も、自分の趣味についてまじめに語ることもありますから。
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