採血で奮闘している
研修医さんがいらっしゃるので
応援の意味もこめて。
今日の話題は
刺しもの です。
採血 点滴 中心静脈確保 動脈確保 要は皮膚の上から 血管に針を入れること
こういうものを ひっくるめて 刺しもの といいます。
「私 刺しものは 得意なんだよね」 なんて使い方をしますが
刺しもの不得意 という 医師には なぜか会ったことがありませんw
何科の医師であれ
患者さんの急変時には 気道確保(呼吸確保)とともに
最も基本的な 手技のひとつです。
採血や点滴の時 患者さんはよく 「私 血管見えづらくてねえ」 なんておっしゃいますが
血管は目で探すものではなく 指先と記憶で 探すものです。
もちろん ここを刺してくれといわんばかりの血管が るいるいと浮き出ていれば申し分ありませんが、
体調が悪いから患者さんなわけで 健康時に見えていた血管も
採血や点滴が必要になるような時には 虚脱して細く締まっているのがあたりまえで
また そうでなければ 刺しもの などとわざわざ名前を付けて 日々鍛錬を積む必要など ないのです。
ここで 採血 および 点滴の 技を伝授。
1、必ず刺せる血管をさがすこと
必要であれば4本の手足全てを探し もっとも良いところに 一発で決めること。
必ず 一発で決める 次はないのだ という覚悟が最も大事。
一度失敗すると 次から極端に刺しづらくなるのは
刺す側の精神的な要素なのか 刺される側の状態の変化なのか。
いずれにせよ 一期一会なのだ。
2、地下の水脈を探すように 指先で血管を捜すこと
目で見えるということは 皮膚近くにあるということに過ぎず それにだまされてはいけない。
血管を捜すときは指先で探すこと。
私は目をつぶって 指先に神経を集中させます。
浮腫んだ腕の奥深く あるいは 厚い脂肪の下に みゃくみゃくと流れる血の流れを感じ取ること。
「本当に大事なことは 目に見えない」 のですから。
3、血管の気持ちになること
こればっかりは。
セックスとおなじ。 入れる瞬間に 相手の気持ちになること。 (あはは 卑猥ですね 失礼)
刺す針の太さ 角度 針を進める速度 どれをとっても 言葉にはならない
向き合っている血管との駆け引き なのだ。
自分でも不思議ですが 刺す瞬間は 無我の境。
針先と血管に 自分自身を完全に同化させ 身を任せるのです。
「自我を捨て 相手の気持ちになること」 世界とつながる基本だと 思います。
4、自分を信じること
自分の経験と知識を信じること。
それは 同時に 信じるに足る 経験と知識を要求します。
とくに 中心静脈*を刺すときには
ここに 血管があるはず
という 解剖学の知識と 経験 だけが 針をさすという行為を支えるのです。
研修医の頃 どうして先生は一発で刺せるのですか って質問したら
だって お前 血管がそこにあるからだろう
って。
今となれば よく分かるし 私もそう答えますけどね。
5、この間に最大限の情報を得ること
ほんの1-2分の出来事ですが この間に得られる情報は かなり大きい。
血管の張りや皮膚の状態から 体内水分量を。
さりげなく脈を取り 四肢の浮腫みを見
血の色を見ることで 代謝や 呼吸状態を知る場合もあります。
さらに
昨日眠れましたか 朝ご飯は食べれそうですか 変わったことはありませんか
たった三つの質問で 消化管 精神状態 全身状態の情報を得られます。
忙しいから 採血など誰かに任せたい 確かに分かる誘惑です。
でも 忙しい時ほど 患者の所に出向くこと
多分 これは なんでも 同じ。
忙しければ忙しい程 基本に戻ること。
そして その時間を 最大限に利用すること。
研修医に伝えられる 秘訣はたったこれだけ です。
でも これが 人に侵襲を加え 痛い思いをさせなければなりたたない 医療の基本であるし
同時に 人を危め 傷つけなければ生きていけない我々の 基本であるような
気がするのです。
朝5時半からたった1時間の採血。
大抵は研修医の仕事。
それは 技術だけではなく人の身体に侵襲を加える 初めの出来事として 学んで欲しいことが凝縮されているから なのです。
だから 患者のみなさん どんどん 文句をいいましょうw
ああ 言い忘れた。
何よりも だいじなこと。
必要でなければ 刺さないこと。
研修医のとき 全然刺さらなくて 患者さんにもうんざりされて
上司に泣きついたことがある。
上司は言った。
刺さらない で済むようなことならば 初めからするな。
お前が刺さなければ この人は死ぬんだ
それで いいのか。
そのあとは なぜか すんなりいったのでした。
死ぬ までは大袈裟にしても
それなりの必要性がなければ 採血も 点滴も するべきではないし
そういう覚悟がなければ どちらも上手くは ならないのだ。
医師であれば どんな状態でも たとえ相手が死体であっても
とにかく 血管内に 針を留置することが できなくてはいけないし
また そうでなくては 命を扱うことなど できない。
方法も 場所も 問わない。
とにかく 血管を捜し当てること。
追い詰められかた の問題 ですね。
注
* 中心静脈確保
たとえば鎖骨下 股の付け根 首などに 点滴が入っていることがありますね あれです。
あれは 解剖の知識だけを頼りに 外からは見えない太い静脈に点滴を刺しているのです