お中元の季節がやってきました。
大学、大学病院というのは様々な科が店子になっているアパート(あるいはデパート)みたいなものですので、この時期、科同士でお中元の贈りあいがあります。
近頃は無駄を省こうということで、臨床教室同士(例えば内科、外科、眼科など臨床もしている科。普段からお付き合いしている。)のお中元は廃止されましたが、基礎系教室(生理学教室、解剖学教室など研究をしている科)と臨床系教室の間(大学院生や共同研究といった形でしかつながっておらず普段はあまりお付き合いがない。)にはその風習が残されていますし、手術室や検査部、放射線部(これは中央診療科という。教室や科ではなく診療部門)とはお世話している/されているの関係ですから、落ちがないようにかっちりお中元を贈ります。
つまり外科ー内科の関係は対等でかつ親しいお隣さんなのでお中元は省略。
外科ー生理学教室の関係は対等だけどちょっと離れた義理のある関係なのでお中元は贈りあい。
外科→手術部、検査部は外科がお世話になっているので外科から一方的に贈る関係。
夏前になると医局の壁に「お中元リスト」なるものが貼り出され
毎年ルーチンでお贈りしている部門に加え、今年新たに義理を果たして欲しい、果たすべきと思われる部門を医局員が書き込むことになっています。
例えば私が今年新たに生理学教室と共同研究を始めていたり、これまであまり出入りのなかった血管撮影室に頻繁にお世話になった、なんてことがあると、そこに書き込み、医局の方から「うちのあぶがお世話になりまして。」といった形でお礼をしてもらうわけです。
「お母さん、今年はあのうちのおばさんにお世話になったからお中元贈っておいてね」といった感じですね。
病院間のお中元、なんてものもあります。
大抵は開業している先輩から「がんばれよ」という意味を込めて、ついでに「今年もちゃんとうちにも医師を派遣してね」と言う意味ももちろん含んで、ありがたいお中元が届くのです。
頂いたお中元のリストは秘書さんが管理し、もらいっぱなしということが決してないように、きっちり同等のものをお返しします。費用は私達医局員から毎月徴収される医局費から出されます。どんなものを贈るかは秘書さんの手腕にかかっています。
お中元の品物は大抵がビールです。昔はいつも医局に遅くまでたむろして先輩と飲み交わしながら議論する、なんていうのが楽しみのひとつでしたから、ビールというのは腐るものじゃなしどこの医局でも重宝されたものですが、近頃の若い人は先輩と飲むくらいなら自宅に帰ってくつろぎたいと思うのでしょう、ビールもあまりありがたがられなくなりました。
うちで最も喜ばれるのはカップラーメンのお中元です。味噌、醤油、塩と3種類3箱取り揃えて届けられる豪華さ。それもお湯切りをしなくちゃいけない生麺などは面倒くさいのか歓迎されず、3分ほどで出来上がる安めのものがもっぱら喜ばれるようです。
とはいえ、これは先輩の病院から贈られるお中元に限り、科同士のやりとりでカップラーメンを贈ることはまずありません。あまり安く見ているように取られかねないからでしょうか。確かに私も、仮に内科からカップラーメンが届いたならばあまり愉快には思わないかもしれません。「お前らこれでも食って、もっと働け」と言われているような気がしてしまうのでしょう。(逆に先輩の病院から贈られるものはほとんどがカップラーメンです。喜ぶと分かっている親しみの表れなのか、あるいはまた、お前らまだまだ生ぬるい、しっかり働け、という叱咤なのか、難しいところです。)
次に喜ばれるのはジュース類です。100%ジュースのちょっといいようなものの缶の詰め合わせ2ダースなんてのは豪勢で見た目もよいし健康にもよさそうでなかなか嬉しい。とはいえ2ダースばっかり、冷える間もなく消費され昼間手術室につめている心臓グループの口になんぞなかなか入りません。
メロン、桃といった果物は秘書さんが切ってお昼時に出してくれますが、これもやっぱり我々の口には入らず、昼間医局にいる大学院生さん、昼休みを取れる数人の医師達が消費しているようで、ありつければ嬉しいお中元ではありますが、大抵夜遅くに残骸だけを見てがっかりすることが多いのです。
なんだか貧しい話になってしまいました。
貧しいついでにもうひとつつけたし。
うちでは、頂いたカップラーメンを自分の机にキープしてはならない、という規則があります。少し前には、一人二つまでしか食べてはいけないという規則もありましたが、医局員も少なくなり、また夜遅くまで残って仕事をしている若い人も減ったせいでしょうか、昔ほどの凄絶な奪い合いはなくなり、寂しいかぎりです。