終わると男はいつも背を向けて寝たから、ヒロミはますます孤独であった。
男のいびきを聞きながら一人天井を見上げて、自分の振る舞い、自分の声、一つ一つを思い返してみるけれど、どこをどう直せば、男がこちらを向いてくれるのか見当もつかなかったし、そもそもそういう風にこの行為を反省したり検討したりせざるを得ない自分が、どうにもこうにも惨めで好きになれず、別に詳しく聞いたことがあるわけではないけれど、誰にも習わず飄々と自由奔放にこの行為を謳歌しているらしい世の中の同性に比べて、自分はどうしてこんなにもすべての行為に困難が伴うのかと、自己嫌悪とも自己憐憫ともつかぬ胸苦しさを抱えて眠るシーツの暑苦しさは、一人寝のそれよりもよっぽど孤独であった。
「でもまあ、昔からあたしは不器用なんだから」
人並みにできない自分はヒロミにとって昔から馴染みのことで、仕事の帰りにみんなに連れて行かれるカラオケであれ、思いつきで誘い合う女同士のランチであれ、職場で交わされるたわいもない下品な軽口をさらりとかわすジョークであれ、とにかくそういった全ての対人行為が、ヒロミにとってはそのたびに自分の不器用さと向き合う試練であり、かといってそういうことに無縁で過ごしたいと思っているかといえば人並みに孤立は嫌いなたちだし誘われればそれなりにそのどれにも参加はしているから、そういう全てのお付き合いから別格の存在としては扱ってはもらえず(ヒロミにしたってそれを望んではもちろんいない)、背を向けて眠る彼にしたって別段ヒロミとの行為に文句を言うでもなく一緒に食事をした後には必ず誘ってくるのだから、ヒロミはヒロミが思うほど「へたくそ」ではないのかもしれない、なんて自分を励ましてみる。
練習もしないで、どうしてみんな、さらりとやってのけるんだろう?
そのときどうやって振舞うか、どうしてみんなは知っているんだろう?
「次はあたしあたし。マイクどこ?」
入社以来の付き合いの小百合がろれつの回らない口調でマイクを探している。
「初めて挑戦してみるねー」の言葉どおり小百合の歌は調子はずれで結局最後まで歌えず、それなのに伴奏をぶちっと切って席に戻る小百合は恥ずかしがるでもなく実に楽しそうで、「次はヒロミ入れなよ。あたしどんどん入れちゃうよ。」なんて無邪気に騒いでいる様を見るとどうして自分はああいう風に振舞えないのだろうと、次来るまでには歌の練習をするよりも楽しそうに笑う練習をしなくちゃなんて頭の中のメモ帳を取り出してしまう。
・・・別段私だって歌が下手なわけじゃないのに。
でもカラオケは嫌い。
うまく騒げないから、うまく笑えないから、うまく楽しめないから、
それがばれるのが怖いから。
たぶん誰も知らない・・・知らないよね、うん、私はきっとうまくやってる。
彼のことは好き。セックスもたぶん好き。でもうまくできないだけ。
彼にそっぽを向かれてしまうの。でもどうしたらいいのかわからない。
彼がどう思っているのかも分らないし、「ふつう」はどうなのかもわからない。
そんなの誰も教えてはくれないし、彼にしたっていいとかわるいとか、
そんなことふつう言わないもの。
セックスはキライじゃない。カラオケにしたって本当はキライじゃない。うまくできないだけ。
そういう自分が、キライなだけ・・・
「ヒロミ」
酔っ払った小百合が首に抱きついてくる。
「楽しかったぁ。 ねえ ヒロミ。」
「・・うん」
「ほんと? ほんとに楽しかった?」
「うん。 楽しかったよ。」
「それならいいけどー。」
「うん でもあんまり歌わなくてごめんね。」
「ううん。ヒロミあんまり歌うの上手じゃないし好きじゃないでしょう。
あはは 私よりはよっぽどうまいけどねー。でも あたしは好きだからいいのー。」
「・・・ほんとはね」
「ヒロミはさぁ 歌わないでもだまっているだけでいいんだよー。
なんか考え事しててもさぁ いるだけで いいんだよー。
ヒロミが嫌でなかったらさぁ また一緒に来てね。
あたしいっぱい歌うから 聞いててね。
んで もしできたらさ 一緒に歌おうよ」
「楽しかったぁ・・・ヒロミ だぁい好き。」
そういうと小百合はヒロミの首に抱きついたまま、小さな寝息を立て始めた。
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「ねぇ あたしとしてるとき 気持ちいい?」
「きもちーよ」
背を向けたまま眠そうに男が答える。
「どんな風に?」
「・・・あったけー」
思わず背中から抱きついたヒロミの手を、彼はぎゅって握った。
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