近頃ちっとも言葉が出てこないと思って悩んでいたんだけど
それってあなたのせいだったんだね。
会社の帰り道 えのころ草ぽんぽん揺れる畔に ルドベキアが競う様に空を仰ぎ
広がる田んぼの向こうには鎮守さまのこんもりした森があって
そこにまっすぐ駆けていきたいのだけど そこに行くまでに
ところどころで案山子みたいに立ち尽くす ひまわりに挨拶しなくちゃいけない
あるいは 堤防沿いの道
名前も知らないマメ科の花がさやさや揺れる その向こうに
深さも分からない緑の河がゆったりと流れていて
河川敷の菜園には とうもろこしが中指をまっすぐ天に向かってつきたてている
とにかくそういった 通りすがりの絵葉書みたいな風景をね
切りとって はいっって あなたに送りたいって思うのに
あのね あのねって あなたに教えてあげたいのに
言葉がちっともででこないんだ。
えっとぉ なんて 考えてるうちに
3台先の車の足元に見える 逃げ水を追って
車はずんずんすすんじゃうから
アリスの国は あっという間にバックミラーの中。
ええい もう まどろっこしいことはなし。
万の言葉を費やすよりも
あなたの手を引いて ここに連れてきて
ほら ねぇ 見て
って 息を切らして言っちゃいたい。
あたしの手は少し 汗ばんでいて
それが少し 恥ずかしいのだけど
ああ もう そんなこと おかまいなしよ。
それから あなたの顔を覗きこんで
ね?ね?ね? って あたしは言うの。
ねぇ ほんと きれいでしょう。
これをね あなたと 見たかったんだ。
それでさ
あなたがその風景に見入ったりしたら
今度はたちまち その風景に嫉妬して
ほっぺを両手でぎゅって挟んで
こっちにぐいって向けてさ
もう あたし以外の何も目に入らないように
ぐちゃぐちゃに口付けしちゃうと思う。
そういう時 んー って言っちゃうよね なんでかな。
ねぇ あたし とっても焼きもち焼き なんだよ?
あたし以外の 何も見ちゃ いや。
それでいてね あたし
たとえば 誰もいない夜中の交差点
信号機が従う車もいないのに 赤になったり青になったり
そんなことをしているスクランブル交差点をさ
ひとりハイヒール こつこつ言わして渡っていったり
昼間の外出 ちんちんに熱くなった車に乗りこんで
もわぁって熱気がこもっていて
ハンドルなんか熱くって触れなくってさ
朝飲みかけたウーロン茶なんてもうホットだよ
あじぃっ って一人で騒ぎながら 慌てて窓を開けたりね
でも窓枠だって めちゃくちゃ熱いんだ
とかね
ツバメがさっと目の前を通りすぎて ああ 洗濯物って思う暇なく 降り出す大粒の雨とか
遅くなった仕事の帰り 駐車場のプラタナスの葉っぱごしに見上げるお月様とか
そういう一人ぼっちのさ
この上もなく美しい瞬間をね
どうしようもなく 愛しちゃってるんだよ。
あなたのいないこの日常の 一こま一こま
さみしくて しんとしていて でもあたしのことだからどたばたしていて
それでいて ちょっと優しいの。
ひとりぼっちの帰り道
ひとりぼっちの朝
ひとりぼっちのお昼ご飯
その美しさをさ こんなにもあなたと 分かち合いたいのに
そこにあなたが居たら
全部が変わってしまって
なくなって しまうの。
ねぇ どうしたら あなたと一緒に 分かち合える?
ねぇ どうしたら あなたとあたしで 幸せになれるかしら?