所属している医局の方針で 就職して以来 1-2年ごとに 転勤している。
新しい町に移って 真っ先に する事は
行き付けの飲み屋を 探す事。
夕飯がてら 顔を出せる 居酒屋。
焼酎のボトルキープができるのが条件。
ちゃきちゃき働く大将と はにかんだ笑顔を見せるバイトの兄ちゃんが いれば なおいい。
いか納豆と 塩辛が 品書きにあれば 言う事ない。
季節によっては ほや酢 なんか 出してくれると 最高。
酔っ払った常連が 人生をぶつくさ語っているのを 背中で聞けるような とこだといい。
もう一軒は 明け方まで開いている バー。
無口なマスター、 女一人で バーボンをあおっていても 放っておいてくれるのが 条件。
アブサンがおいてあれば 言う事ない。
角砂糖を付けて と言っても 嫌な顔を しないといい。
間接照明のもと ジン舐めながら 「重要血管へのアプローチ」なんて本を広げていても 「何の本ですか?」なんて話しかけてくる 店員が いなければ いい。
4月に 引越しをして
居酒屋は すぐに 見つかった。
問題は もう一軒。
こんな 田舎の病院の回りに バーなどあるはずもないと あきらめていたが
通りから入った マンションの二階に ひっそりとつく ハイネケンの看板を見つけた。
マスターは・・・・いない。
すいません いいですか?
奥のほうでダーツをしている予備校生らしき軍団に 声をかける。
ああすいません
その中の もっとも予備校生チックな やせっぽちが カウンターに 入る。
失敗した。
でも いまさら ひきかえす訳にもいかず カウンターに腰掛ける。
マスターらしき そいつは くたびれたTシャツ スリムのジーパンを ほっそい 足にまとわりつけて
おずおずと
<メニュー>
と ワープロうちした 紙をさしだす。
あの これが うちで できるものです。
書いてないので できるやつも ありますけど 難しいのは だめです。
理科の実験のように 試験管で混ぜられそうな気がして カクテルは やめた。
ウイスキーは 何を置いてます?
うちに あるのは これだけ なんで。
どうやら ビリヤード台の 隅に ごちゃごちゃと 置かれた 瓶が この店の すべて らしい。
こんな店に入ってしまった 自分に腹がたち
いっそのこと 梅酒でも頼んでやろうと 思ったが
ふと 見上げると
冷蔵庫の上に 1本だけ 置いてある ペルノ が 目にとまった。
じゃあ その ペルノ 水で割って ください。
・・・・・・・。
あの それ 違います?
・・・・・・ あの これ 僕の なんです。
ぼく 好きで でも お客さんで 飲む人 いないと思って・・・・・
・・・でも いいです。 お出しします・・・・。
意を決したように 冷蔵庫の上に 手を伸ばす 予備校生。
いや そこまで 飲みたいわけじゃないし、別に いいんだけど・・でも・・・そう?・・・・・じゃあ もらおうかな。
出てきた ペルノは よっぽど もったいなかったんだろう
薄すぎて 水の味しか しなかった。
一刻も早く この店を でようと ペルノ色の 水に 口をつけると
・・・あの
はい?
・・・向こうの壁に 友人の作った詩が 飾って あるんです。
個展 って いうのかな。
見てもらえると うれしいんですけど。
もおおおおおおおおおおおおおおおお。
わかった 見てやる。 見て さっさと 帰る。
案の定 壁に貼られた 詩やら スケッチやら は
恥ずかしくなるほど へたくそで
カウンターの向こうで にこにこしながら 感想を待っている 奴に 近づかずに 会計をする段を 模索する。
・・・あの それ見たら ダーツ やりませんか?
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
最低。
すべてが だめだめ。
でも
気に入った。
もう 一軒は ここにする。
私が 接客と 酒 は 教えるから
あんたは その詩と ダーツ を 教えてくれ。