ひさびさに医局の机に向かい ぼうっとしています。
現在2時5分前。
戸締りをする当直医が先ほど 廊下を通り過ぎていきました。
あ 先生 お疲れさまです。
鍵 空けときますんで帰るときよろしくです。
じゃらじゃらと並んだ部屋のいくつもの鍵が触れ合う音が遠ざかり 医局には再び私一人となりました。
コーヒーをすすりながら PCに向かうこのひと時が とても好きです。
24時間常時稼働の病院の空調が ごうう と遠くで響いています。
さらに耳を澄ませば 研究室の半分を占める巨大冷凍庫が ぶううん と低いうなり声をたててそれに加わり
時には 隣の部屋で 机の上に放置された誰かの院内PHSが すでに不在の主人を探して 小さな鳴き声をあげたりもしています。
昼間の喧騒の中では 聞こえることもない音音音に からだをどっぷりと埋め
蜘蛛の巣の張った蛍光灯を見上げていると
今私がここにこうしていることが とてつもない冗談のように思えてきます。
ここではないどこか別の世界に 本当のリアルな現実があって
そこには リアルな現実感と重い肉体をもち世界を肌で感じている本当の私がいて
へんてこなこの世界を 夢見ているようにも 思えるのです。
そう考えて見ると 机の上に積まれた大層な実験計画書やら
数日前に空けたリポビタンDの空き瓶やら
虫の死骸だらけの白衣やら
どれも大真面目な顔をしているものの すべてが胡散臭く
ああ 変な夢だった って一言で吹き飛んでしまう程度の張りぼての安っぽさを纏っています。
ふわふわとした不安定な非現実感が ひたひたと部屋を満たし
私はあわてて膝をつねって 痛いことを確認します。
明日は荒れ放題の机を片付けて
現実感をこちら側に引き寄せる必要が あるかもしれません。
そうやってどこかでバランスをとっていかないと
自分が消えてしまいそうで 怖くもあるのです。