その町まで車で3時間。
公園に仮しつらえのテントで配っていたのは トン汁 握り飯 ほっかいろ
それと 「越冬闘争 本年度の死者すでに○名!」 と書かれたビラ。
それだけだった。
もともと暇と好奇心をもてあます学生の気まぐれだ。
手伝うとはいえ 参加もまばらだったし 試験などで忙しくなれば自然と足も遠のく。
また思い出したように通ってみたり そうやって何度かの冬を過ごした。
何度かの炊き出しで自然と知り合い 久しぶりに出会ったおやじの歩き方が妙に目に付いて
嫌がるところを無理やり破けた靴下を剥ぎ取ってみれば
循環障害なのか 凍傷なのか 足底にできた深い潰瘍には骨がのぞいていた。
先輩の医師のやっている無料診療所へ連れて行こうとしたけど
「そういうのは嫌なんだ」 って 恥ずかしそうに笑って
足を引きずりながら雑踏に消えていった。
ある時 酔っ払ったおじさんが 私の尻を触った。
そんなことなんでもなかったのだけど
気づかない振りして済ませられることだったのだけど
止める間もなく
その場に居合わせた炊き出し組のメンバーの一人が
泣かんばかりになっておじさんの胸ぐらを掴んだ。
あんたら そうやって そういうことするから だからだめなんだよ!
あまりの勢いに私は呆然と立ち尽くすだけだった。
あんたら って一括りにされたおじさんの顔も
たぶん今までもそうやって ホームレスの人たちとそれを取り巻く社会との間に立って
屈折した差別の矢面に立ってきたであろう彼の顔も
どちらも見ることはできなかった。
シェルター予定地を遠くに見ながら 余ったトン汁をすする。
「おじさんはあそこには入らないの? 野宿は寒いでしょう。」
「――――ああいうの 性にあわなくてね。 おれら野良犬じゃ ないからさ。」
おじさんは 頭をぼりぼりって掻いて怒ったように呟いて
それからまばらにしか残っていない歯を見せて にっと笑った。
政策っていうのは 人間まとめて一括りにしなきゃ 成り立たないのかもしれないけど
せめて個々人は 顔の見える近さにいたい。
そうやっていつだって マスに対するアンチを提供し続けなければ
管理・収容の手は すぐさま私たち全員に伸びてくるのだ。