コートのポケットの中に手を入れると 指先に当たる硬い紙切れがあった。
以前住んでいた町のバーの名刺だった。
その町には3000件の呑み屋があるといわれ
全部制覇するには 毎日10年間新しい呑み屋に通いつづけなくちゃいけないんだね
そう語りかけた友達に 女は黙って笑顔を返したが
それから 色とりどりに輝くネオンを うっとりと眺める振りをして 顔をつと背け
10年毎日の言葉の重さを 吐き気とともに飲み込んだのは
その時にはまだ かの町に己の人生を重ねていたからか。
その町を後にする時
振り返りもせずに 列車に乗り込んだ彼女を評して
その後ろ姿は なんだか憑き物が落ちたみたいだったよ と
遅くになって手紙をくれた友達も はや音沙汰もなくなった。
名刺を見たところで
ただその日を過ごすためだけに通ったネオン街の
すえた匂いと 裸をコートに包んで立ち尽くす女達の嬌声の他 思い出すものとてありもせず
そもそも二度と行くつもりもない店の名刺を 何だってポケットに押し込むような真似をしたものかと
その行為を 情けないともおぞましいとも そして哀しいとも 今になれば思う。
ネオン街に通えぬ日は 決まってコンビニエンスストアーの 握り飯を夕食にした。
職場の横に立つ店が 女の行きつけだった。
握り飯と烏龍茶 そして 煙草。
それ以外を買ったことはなかった。
握り飯が売り切れていれば 飯は烏龍茶と煙草だけとなった。
握り飯と烏龍茶 そして 煙草。
吸い寄せられるように通いつめた
ネオン街のどの店も行きつけにすることはなかったが
職場のとなりにひっそりと立つコンビニは女の行きつけだった。
―――――明日目覚めないこと それだけを願っていた日々。
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