心臓血管領域でどうしてもなくてはならない薬、強心薬?利尿剤?降圧剤?もちろんどれも大切ですが、ワーファリン(抗凝固薬)は特に外科医にとっても重要な薬です。
これは血液の凝固機能を抑える薬で、血液の固まりやすさが不都合な患者さん(人工弁が入っていたり(注1)、不整脈があったりして(注2)、普通の方よりも血液が固まり易い状態にある方に処方されます。(注3)
この薬、面倒なことに、食べ物の影響をとても受け易いのです。というのも、凝固機能に重要な役割を果たしているビタミンKの作用をブロックするというのがこの薬の主作用で、このビタミンKは食べ物の中に含まれているからです。ビタミンKを多く含む食事を取れば薬の効きは悪くなります。
食べ物、といったってそんなに珍しい食品じゃありません。
青菜、ブロッコリー、若布・・・などなど野菜を中心としてほとんどの食品に含まれているといってもいいのです。これらのもの全て食べるなとか厳密に一定の量を食べろ、というわけにはいきませんし、さらには腸内細菌の影響もうけますので、薬の効き具合を一定に保つためには、その時々に合わせ薬の内服量の方を加減しなくてはなりません。つまり食事制限しないかわりに(注4)薬の量のほうを調節していくわけです。
この薬の効き具合は血液検査でわかりますので、この薬を飲んでいる患者さんは数週間~数ヶ月に一度病院で血液検査をし薬の量を調節しなくてはなりません。
心臓外科の外来患者さんの何分の一かはこの薬の調節を主目的として通っていることになります。
さて春。
仕事仕事で病院に篭りきりで山歩きなどできるはずもないばかりか、季節の移り変わりすら見逃してしまいがちな私たちですが、いっせいに芽吹いた新緑の山々の様子は行かなくたって手に取るようにわかります。わさわさと一斉に背伸びをする新芽のように、外来患者さんの検査値が揃いも揃って上がる(=薬の利きが悪くなる)のですもの。
「○○さん、今日の数値上がってますねぇ。なにおいしいもの食べたの?」
「ありゃ、ばれたかね」
「で、何でしたっけ?この季節。」
「たらの芽とこごみだあね」
「食べたっていいけれど、そんなにたくさん食べたの?」
「まぁずえんらく採りすぎたもんでさ。」
「じゃあ今日からちょっと薬増やしますね。」
「いんにゃ、もう時期もおわりだで。」
たらの芽とこごみが終わっても、次はわらびが始まるでしょうがっ!
【キャベツと豚肉のポン酢和え】
【うどの皮のきんぴら】
うどの食べ方は色々あるけれど、葉の天婦羅、皮のきんぴら、茎のお刺身に勝るものはないと思う。特に皮のこれは牛蒡、れんこんと肩を並べて、この調理法と一分の隙なく完璧に寄り添う。
【ご飯】
【豆腐と長ネギの味噌汁】
【春の芽の素揚げ】
天婦羅にするつもりが、家に帰ってから小麦粉の切れていることに気がついた。
天婦羅のような品はないけれど、お気に入りの椀に素揚げしたいろいろをがさごそと放り込んでみた。
抱えた紙袋に手を突っ込んで、これがあったあれはまだあるかしらんと駄菓子を探す楽しみのように。―こごみ、たらの芽、うど、アスパラ
追記:
納豆が体に悪いわけではありません。
ある1種類の薬”ワーファリン”と競合するというだけです。
この薬を飲んでいない方にとっては関係ありません。
(注1)私たちの血液は、普段接している血管内壁(血管内皮細胞という)に接触すると固まる、という性質をもっています。私たちが例えば手を切ったり青あざを作っても大抵大したことにならずにいるのは血液のこの作用のお陰で、血管内壁以外の体の組織などに血液が触れるとそこで血液が固まりそれ以上の出血を防ごうとするからです。
ところが心臓の手術では壊れてしまった弁を人工弁に取り替えるという手術が行われるのですが、当然この人工弁は体にとっては異物、血液はこれに接するとそこに血の塊りを作ってしまうのです。人工弁に血の塊りができてしまうと弁は動かなくなります。
(注2)ある種の不整脈があると心臓の中に血液がよどみを作ってしまい、そこで血の塊りを作りやすくなってしまう。血の塊り(血栓)が脳に飛べば脳梗塞を引き起こす。
(注3)抗凝固薬、というと一般に「血液をさらさらにする薬」といわれている抗血小板薬と混同しがちですが、「血液をさらさらにする薬」として脳梗塞予防や狭心症に対して処方される血小板作用を抑制するアスピリンなどとは別の部類の薬です。
(注4)ただし納豆だけは例外。納豆には他の食品と比較にならないくらいたくさんのビタミンKが含まれているため、ワーファリンを飲んでいる患者さんには納豆を食べないでくださいとお願いしています。