病院のシャワーが壊れてしまい
病院のお偉方は当直という勤務があることは知っていても
翌日は帰宅して暖かい風呂に入れるものと思っているのでしょう、
待てど暮らせど修理される様子はなく
ここ数日泊り込みの私は若い身空を垢と汗にまみれさせ、日々労働に励んでおります。
とはいえ秘境探検が仕事なら、汗も垢も美しいでしょうが
医師は客商売、
少なくとも白衣から出ている部分はセイケツに保たねばなりません。
幸い私はショートカットなので
洗面所にかがんでママレモンで頭を洗うことを覚えてからは
他のDrのようにフケだらけの頭を手術帽子で隠し、なんてこともなし
さっぱり風呂上りのさわやかさで勤務しております。
やっぱり女たるもの身だしなみには気を使わねば。
待ち焦がれた週末、閉店間際の銭湯に駆け込むことができました。
露天風呂でのんびりお月様を見上げていると
どこからか魚を焼く匂いが漂ってきて
よし、今日は魚を焼こう、と思い立てば
呼応するようにお腹もぐうと鳴き
汚れ落しもそこそこに風呂を飛び出したのであります。
ほっけ焼
野菜の揚げ浸し
平茸とほうれん草の白和え
平茸は今昔物語にも登場するほど昔から親しまれてきたきのこだそうです。
地方での任務を終え都に帰ろうとする国司が途中で崖から落ちてしまいます。
あれ、もうご主人様は到底ご無事ではおられないだろうと臣下が騒いでおりますと
崖の下からおーいと声がする。
慌てて籠を下ろすと、なんと籠一杯の平茸が上がってきた。
主人は二度目に降ろした籠にこれまた袖一杯に平茸を詰め込んで入ってきた。
主人が悔しそうに言うことには
「崖の途中でひっかかったところの木にたくさんの平茸がなっていた。
できるかぎり取ってきたが取りきれず、宝の山を残してきた気持ちだ。」
とのこと。
なんとまあ平茸に、と臣下は失笑するのですが
この味を一度知った者にとっては命の危険を忘れさせるほどの味だということでしょう。
確かにそのとおりで、白和えにするために網で炙った先から
ちぎっては食べちぎっては食べしているうちに
結局白和えは、これっぽちになってしまいました。
次はぜひ七輪でも買って
炙った平茸を肴にちびりちびりやりたいものです。