立春も過ぎたころ一度 里にはかならず大雪がふる。
もうそんなに寒くはないからって油断してるだろ。
でも窓を開けてびっくり。
水分を多く含んだ重い雪が 音も立てずにずんずんずんずん降っている朝。
太平洋を低気圧が通り過ぎているのさ なんて知ったかぶりはどうでもいい。
あれはね 神様が 今年の雪もこれでおわりだぁ って雪袋の底に残った溶けかけの雪を
里にばら撒きながら 北の国に帰っていく印なのさ。
この時分に降る雪が北の山より南の里に多いのは 神様が北の住まいに帰りつく頃には
雪袋の中はからっぽになるからだってさ。
ああ そうそう だから上雪とも神雪とも言うわけ。
どうせすぐ溶けちゃうとはいえ
そろそろタイヤも交換したいなあなんて思い始めた頃でさ
全くもってメイワクな神雪だけど これこそ春がすぐそこまで来ている証拠だ。
ほらみてごらん 神雪に乗って真っ白い空を マグロたちの群れが北に帰っていくのが見えるだろ。
降りしきる雪の隙間を縫うようにして ひとつふたつ・・・とおばかりいるかい?
ああやって 身体をときどき震わせて身体に積もった雪を振り落としているのさ。
この時分の雪は どっさり重いだろう。
ああしないとすぐに重みで飛べなくなってしまうんだよ。
こいつみたいにな。
・・・・・おっと こりゃあ 母まぐろだ。 じきに仔が生まれるんだな。
親父が軍手をはめた手で手早く雪を払いのけると
つややかな青いそれは びくん と大きくはね 空に戻った。
まるで魚みたいだ と僕は思った。
神雪が降ると思い出す、29年前の今日の記憶―――――。
あのときの
仔は今も元気に空を泳いでいるだろうか。
ちなみに まぐろの体がこんなにもつるつると美しい流線型をしているのは
積もった雪がうまく滑り落ちるようになんだ そうですよ。
自然ってすごいですね。