普段 めったに風邪引かないから
くそぉ 風邪ひきてぇよぉ 正々堂々と休みたいよぅ!! と日々お祈りしていたabsinthですが
いざ 風邪引くと
いやぁ 神様 そんなくそ真面目にお祈り聞いてくれなくたって いいんですのに
冗談ですってば カワイイ冗談
空に向かって 突っ込んでみたくも なります。
お陰で 火曜日はしっかりお休みを頂き (外来に出るどころじゃありませんでした)
祈ったはずの休日を 熱にうなされて過ごす羽目になりました。
びっくりするくらいの高熱で汗びっしょりだし 吐いてて飲めない食えないし
どう考えたって 点滴補液* するべきだよなあ とは思うものの
病院にはどうしたって 行きたくない。
病院に行けば 同僚に会うし
いやそれよりも 患者さんに会っちゃうかもしれない。
病棟で風邪が流行ったら あのときabsinthが来てたせいだ なんて思われるかもしれないし
こんなひどい様の私を見たら
来週手術予定の方なんて 不安になって 手術キャンセルしちゃうかもしれないぢゃないか。
熱のためか 考えは悪い方へ悪い方へと 進みます。
他の病院にでも行ったら
○○病院のDrが自分のところへ行かずにXX病院へ行っていたんですってよ 奥様
まあ よっぽど ○○病院ってひどいのね
なんて ことに なるかもしれない。
ああ 医者って不便だ。
医者じゃなかったら すぐに 病院へ行きたい。
病院に行って 優しい看護婦さんに 大事にして欲しい。
医者になんて ならなきゃよかった。
いいんだ いいんだ 私はひとりぼっちで 脱水で死ぬんだ
あ その前に 家の中片付けなきゃ
ごみのせいで 死んだと思われると しゃくだから。
寝巻きももっといいのに 着替えよう・・・・
下着 おにゅうの 下ろそうかしら・・・どこに仕舞ってあったっけ・・
いや だめだ。
私が死んだら
太郎に餌をあげる人が いなくなるぢゃない・・・
太郎を誰かに預けなきゃ 死ねないぢゃない
太郎 ありがとう・・・お前のお陰で 生きる気力が沸いてきたわ
うっとりと 最後の一葉 absinthバージョンに浸り
時が過ぎるのをじっと待っていたのですが (風邪を解決するのは大抵の場合 時 ですから)
そんな時に 同僚から救いの電話がきます。
「あぶ 生きてるか? 食えてないなら 病院に来いよ」
地獄に仏とはまさにこのことです。
「うん。 熱で死にそうなの。 でも病院に行くとみんなに迷惑かかるから 行きたくないの。
往診 してくんない?」
わざと死にそうな声を出します。
お支払いは後日ということで 後輩が点滴を届けてくれることになりました。
ここで はっと気付きます。
後輩が来ても こんな汚い家にあげるわけにはいかない。
ともかく入り口だけでもなんとかしようと 這いずって玄関の片付けを始めます。
当然の事ながら 玄関は凍えるほど寒く 悪寒はますます激しくなり
しかも 砂ぼこりと入り口においてある灯油の匂いで 咳が止まらなくなります。
だめだ こんなことでは 本当に死んでしまう。
さらにそこで 自分のひどい格好に 気がつきます。
同僚ならともかく 後輩にこんな姿をさらす訳にはいきません。
だいたい 電話をよこした同僚ではなく 後輩を寄越すところが 友達甲斐のないところです。
でも 一体 どんな服を着たら いいのでしょうか。
見栄えよく 汚らしくなく ごみ箱に溢れかえるティッシュペーパーを想像させない 爽やかな服
かつ
決して 仮病じゃないってことを主張するほどには 病人らしい服
しばらく考えて そもそも 私はパジャマを持っていないことに 気付きます。
仕方なく この間 ユ○クロで買ったばかりの トレーナーをおろすことにしました。
と ここでタイムリミット。
後輩の到着です。
おにゅうのトレーナーを被るところまではいきましたが 正札をとることはできませんでした。
上から半纏を羽織り そそくさと 迎えにでます。
(上から半纏を着るのであれば わざわざおにゅうをおろす必要など ありませんでしたね)
さあ ここからが 大変です。
何が何でも 家にあがり 点滴を刺そうとする後輩と
玄関で追い返そうとするabsinthとのバトルです。
「いやあ 先生 遠慮しないで下さいよ。 僕だってちゃんと刺せますから。」
「うん それはね 分かってるんだけどね。風邪うつしちゃ悪いし。」
「大丈夫ですよ。 僕体力には自信あるんです。」
「うん それも知ってるけど・・ありがとう。本当にいいわ。」
「先生 僕の腕 信用できないんですか。」
「いやいや そんなことないよ。先生点滴上手だよね 知ってるよ。」
「じゃあ 奥に誰かいるんですか。」
「居ない 居ない。 とんでもない。」
本当にしつこい奴です。
きっと私の同僚に 風邪と偽って家の中に誰か連れ込んでいないか チェックして来いと 言われているのに 違いありません。
全く余計なお世話です。
家の中には 太郎その他 しかいないというのに。
本当ならば 何もやましいところはない!と奥の襖を 開け放ちたいところですが
今日はそうはいきません。
やっとのことで後輩を追い返し 待ちに待った点滴と ひとり向き合うことが出来ました。
このころには 私もヒートアップしてしまい
具合悪いんだか それをもう通り越しちゃってるんだか よく分からなくはなっていたのですが
ひとまず 点滴を刺すことにします。
計画通り 点滴をせしめ後輩も追い返したので 気分はうきうきです。
「点滴 点滴 うれしいなぁ なんでも食べます よく噛んで~」
思わず 鼻歌まで 歌ってしまいます。
しかも この虚脱した血管を一発でしとめる 私の針さばき!
自分でもうっとりしてしまいます。
ああ 医者になってよかった そんな風に思いながら
誰に邪魔されることのない まどろみへと落ちていったのでした。
注* 脱水に対する補液という意味であり 風邪に点滴が効くわけではありません。